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BAITOTS限定小説 第1弾

好きなんかじゃない、まだ。

原作:上瀧将郎
イラスト:きみ

 コンビニでのアルバイトを始めて、もうすぐ半年になる。
 なにかアクシデントでもないかぎり、変わらぬルーチンワークとなっていて、もう自分の日常の一部となっていた。
 毎日入ってくる商品を、いつものとおりの場所に並べる。いつもの変わらない日常だ。
 夕方の忙しい時間が過ぎて、深夜帯の人のために少しでも品出しをしておいたり、モップがけなんかをしていると、時間は午後七時五十分。わたしの日常の一部が、そろそろ店にやってくるころだ。
「あ、来ましたよ!センパイ!」
 ガラスの向こうに見える彼の姿を目ざとく見つけた、バイト仲間の奈々ちゃんが声をかけてきた。だからどうしたのよ、などと応じる間もなく、
「がんばってくださいね」
 普通にしゃべるよりも目立つヒソヒソ声で言い残して、彼女はわざとらしくレジを離れて品出しに行ってしまった。
 仕事終わりのこの時間に、わたしのはたらくこのコンビニにやってくるスーツ姿の彼。奈々ちゃんとおしゃべりをしているときに訊ねられた、「好きな人とかいるんですか?」という質問に、なんとなく気になっている彼を挙げてしまった。それだって、いくら「いないよ」と答えてもしつこく聞いてくるから、「強いて言うなら…」という前置きつきで言っただけだというのに。それ以来彼女はこの調子で、何かと世話を焼いてくるのだ。

 彼がレジにやってきて、台に置かれるお弁当とペットボトルのお茶、冷凍の餃子。いつも彼の買うものは栄養が偏っていて、心配になる。
 ピッ、ピッ、という耳慣れた電子音の合間に、ちらと彼を盗み見る。
 中肉中背のわたしにくらべると、ずいぶん背が高い。少し面長の顔立ちに、あくまで品よく遊ばせた髪の毛先がよくあっていた。薄い唇のせいで、きれいに通った鼻筋が際立つ。一重ながら目幅がひろく、奥に光る瞳はどことなく宝石のような輝きがあった。
「ありがとうございましたー」
 ドロワーを閉じながら彼の背中を見送っていると、奈々ちゃんがいそいそと戻ってきた。
「センパイ、どうでした!?」
「どうって、別にふつうだよ」
「えぇ~」
 あからさまにがっかりする奈々ちゃんに、わたしはため息をついた。
「っていうかね、なにか勘違いしてるみたいだけど…」
「またまたぁ。センパイ、今日もめっちゃあの人のこと見てたじゃないですか。完全に恋する乙女って感じ~」
 むっとして奈々ちゃんをにらむと、彼女は肩をすくめて隣のレジに立ってしまった。
 確かに顔立ちを見て惹かれるものはあったけれど、それだけだ。一目惚れなんてする年齢じゃない。
 だいたいわたしという人間は、ごはんをきちんと食べていない人を放っておけないのだ。大学生のころに一人暮らししていたときも、友だちがごはんを食べに家にやってきていたくらいだし、外食ばっかりの奈々ちゃんのことだって気になっている。
 そう。わたしが気になっているのは彼自信ではなくて、彼の食事情なのだ。
 わたしは自分にそう言い聞かせ、レジを奈々ちゃんに任せて、洗いかけの什器を洗うことにした。